2020年12月7日お知らせ
2020年度上半期審査状況を取りまとめた。当期は新型コロナウイルスにより影響を受け、さまざまな特徴が見えるが、その中から、①新型コロナ関連で苦情、②動画広告への苦情が急増、コンプレックス広告も、③増加が続く定期購入契約の苦情 の3つを「審査状況トピックス」として取り上げた。
2020年度上半期(2020年4月~9月)にJAROが受け付けた広告・表示に対する相談は7,969件(前年同期比130.1%)で、過去最多だった前年度を大きく上回るペースとなっている(2019年度通期では12,489件)。内訳は「苦情」(意見も含む)6,147件、「称賛」10件、広告制作・審査に関するご相談である「照会」1,241件、「JARO関連」77件、記事や番組などの「広告以外」494件で、「苦情」「照会」がともに大きく伸びた。新型コロナウイルスの影響により外出を自粛する人が増えた4月から「苦情」件数が増加し、月別では4月に前年同期比164.3%となった。増えているのは「オンライン」経由の苦情で、「電話・FAX等」がほぼ前年並みであるのに対し、「オンライン」は前年同期比148.6%(2019年上半期は131.3%)となった。
苦情が増加しているため多くの業種で件数が伸びているが、外出自粛の影響で消費が伸びたと思われる分野や健康・美容分野が増えており、特に「デジタルコンテンツ等」と「健康食品」は倍増した。
「デジタルコンテンツ等」は、ホラーや災害を内容とする映画・ドラマなどの映像配信サービス、広告と内容が異なるというゲームアプリ、ポイント還元の条件が誤認を与えるとするフリマアプリなどに苦情が寄せられた。
「健康食品」については、「広告のような効果が得られない」「定期購入だと分かりにくい」などの苦情が寄せられた。また、ネット上の動画広告を中心に、肥満や薄毛などのコンプレックスに訴える広告に対しても意見が寄せられた。
「苦情」の媒体別では2019年度に「インターネット」(※3)が「テレビ」を上回り、当期も同様に、「インターネット」「テレビ」「ラジオ」の順となった。「インターネット」は前年同期比153.1%、「テレビ」129.0%と大幅に増加したほか、マンション管理会社と誤認させるインターネット接続サービスや飲食店のテイクアウトメニューなどの「チラシ」、マスクに関して「新聞」や「ラベル・パッケージ等」などが目立った。
「インターネット」の中で苦情が多かった業種は、「健康食品」459件(前年同期198件)、「デジタルコンテンツ等」440件(同262件)、「化粧品」195件(同104件)、「医薬部外品」188件(同43件)など、また、「テレビ」では「デジタルコンテンツ等」303件(同107件)、「携帯電話サービス」208件(同93件)、「健康食品」144件(同88件)などが多かった。特に、「インターネット」における「健康食品」は前年同期比231.8%と急増し、定期購入契約を含め、虚偽・誇大な表示に関する苦情が目立った。
「インターネット」は広告だけでなくウェブサイトの表示なども含み、件数が多かったのは「自社ウェブサイト」785件、「販売サイト」734件、「バナー」697件、SNS等の「インフィード」576件、「動画」549件、「アフィリエイト」169件(複数が該当するケースあり)などであった。中でも「動画」は前年同期124件から急増し、コンプレックス広告への苦情が目立った。
※3 媒体別「インターネット」は広告だけでなく、広告主の自社サイトや通販サイトなどの表示も含む。
総受付件数7,969件のうち消費者からの相談は6,697件で前年同期比133.1%だった。「不明」を除く全ての年代で増加しているが、特に若年層は「10代」が171.6%、「20代」が185.6%と高かった。
消費者全体に占める男性の割合は63.9%、女性35.6%、不明0.4%で、例年より女性比が若干高めとなった(前年同期はそれぞれ65.6%、33.4%、1.1%)。
「苦情」6,147件を申し立て内容別に見ると、大別して(1)表示、(2)表現、(3)広告の手法に対するものに分かれ、当期は(1)表示が前年同期比153.7%となった。外出自粛が広がった3月、4月ごろから増加した。
(1)表示に対する苦情とは、虚偽・誇大、分かりにくいといったもので、広告・表示規制に抵触するものも多い。(2)表現に対する苦情とは、広告で描かれているものが「セクハラである」「暴力的である」「子どもに悪影響がある」などといった意見(分類上は「苦情」)、(3)広告の手法とは、CMの音の大きさ、広告の頻度、ステマ、迷惑な広告掲載方法などである。
特に増加が目立ったのは(1)表示の「品質・規格等」1,891件(同793件)で前年同期比238.5%、内訳では「健康食品」284件(同102件)や「医薬部外品」147件(同26件)、「化粧品」106件(同42件)などが増加した。「価格・取引条件等」は定期購入契約など「健康食品」171件(同75件)やフリマアプリや動画・マンガ配信サービスの「デジタルコンテンツ等」131件(同90件)などが増加した。
(2)表現では「音・映像」が985件と多く、このうち媒体「テレビ」が746件を占める。ホラーや害虫の表現、チャイム音や冒頭の大きい音などに意見が集まり、中にはコロナ状況下での不安感に言及して、驚かせたり不安をあおる表現をやめてほしいどの意見もあった。表現のうち「音・映像」「差別・ジェンダー」は10代・20代の若年層および女性で高い傾向があり、苦情全体における「音・映像」の構成比は16.0%なのに対し、若年女性では30.8%、「差別・ジェンダー」は3.8%に対し11.6%だった。
(3)広告の手法では迷惑な方法であると訴えるもので、激しい点滅を繰り返す動画広告、大きな音で注意をひく広告などのほか、ウェブ広告を非表示設定したのに何度も表示されるといったものもあった。
2020年4月から新審査基準を運用し、新設した「厳重警告」を含む13件(前年同期21件)の「見解」を発信した。内訳は「厳重警告」5件、「警告」7件(同19件)、「要望」0件(同1件)、「助言」1件(同1件、「提言」から名称を変更)となった。13件の業種・媒体の内訳は下表の通り。
上半期の「厳重警告」「警告」計12件のうち、アフィリエイトサイトが関わる事例は11件を占めた。多くは、ニュースサイトやSNSなどのインフィード広告からアフィリエイトサイトにリンクし、そこから販売サイトへ行くものである。アフィリエイトサイトのほか、動画共有サイトにおけるアフィリエイトの動画広告もあった(厳重警告(4)(5))。
上半期は外出自粛が広がる中、広告を審議する業務委員会をオンライン開催に切り替え、当初は模索しながらの審議となり、「見解」件数は13件にとどまった。
≪厳重警告≫
(1) 「飲むだけでみるみる痩せる」とうたっているが、アフィリエイトサイトで痩身の根拠として掲載されたのは人工肛門の論文を加工したと思われるものであり、「初回限定価格500円」は5回購入が条件であり、表示が分かりにくいものだった。(健康食品/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(2) ポータルサイトのインフィード広告からリンクした口コミサイトに「特許成分の○○なら10分で体の中から消臭」「今だけ500円」などとうたっていた。(健康食品/インターネット〔ポータルサイトインフィード、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(3) 広告やアフィリエイトサイトなどで、「ステロイド頼りだったアトピーがせっけんを変えただけで?」などとアトピーに効くような内容をうたっていた。(せっけん〔化粧品〕/インターネット〔ニュースサイトインフィード、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(4) 「飲むだけなのにマッサージの9倍もの脚痩せ効果!」「初回10円」と動画広告で言っていたが、同梱の請求明細書に16100円と書かれていた。(健康商品/インターネット〔動画共有サイトのアフィリエイト広告、自社通販サイト〕)
(5) 上記(4)と同じ事例で、動画広告制作・運営事業者宛のもの。
≪警告≫
(6) 「悩みのポツポツが面白いほどポロッと」と販売サイトに表示し、記事風のアフィリエイトサイトに皮膚科医のコメントとして首イボが2週間で取れるかのように表示していた。(ジェル〔化粧品〕/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(7) 販売サイトに「国産HMBが筋力アップを強力サポート」と表示し、アフィリエイトサイトには事実と異なり500円で試せるかのように表示していた。(健康食品/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(8) 健康食品の販売サイトに「体内フローラの善玉菌を増やす」、アフィリエイトサイトに「短鎖脂肪酸が宿便に吸着して、便と一緒に流しちゃうんです!」などと表示していた。(健康食品/インターネット〔ニュースアプリインフィードバナー、スポーツ新聞サイトインフィードバナー、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(9) ジェル(化粧品)の広告に、「塗った場所だけの脂肪を増やすジェルを塗っただけ」「通常7,000円が今だけ0円」などと表示していた。(化粧品/インターネット〔新聞社公式サイトインフィード広告、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(10) サプリメントの広告に、誤って飲んだ父親が巨乳になるというマンガや「これを一粒飲むだけで女性ホルモンがドバババババ!と全身に行き渡るんです」などと表示していた。(健康食品/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(11) CBD(麻からの抽出成分)が「ネット限定ワンコインコース500円(税抜)、300名様限定」とあるが、申し込みボタンを押すと、定期購入で総額29,420円になる旨の表示箇所を越えて申し込みウェブフォームに飛ぶ設定になっていた。(雑貨品/インターネット〔自社通販サイト〕)
(12) ジェル(医薬部外品)の販売サイトに「目元・口元などのあきらめていたシミに!」、アフィリエイトサイトに「シミがペリッとはがれた!?」などと表示していた。(医薬部外品/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
審査結果の定義(2020年6月18日公表「JARO審査基準改定について」から)
【厳重警告】
警告相当の広告または表示であって、問題箇所の数、消費者に誤認を与える程度等により、その不当性が特に高いと認められることから、当該広告または表示を直ちに削除または修正することが必要と認められるもの。
【警告】
広告または表示が、実際のものより著しく優良・有利に表現され、消費者に誤認を与えるもの、または広告・表示関係法令に抵触することが明らかであることから、当該広告または表示の速やかな削除または修正を求めることが必要と認められるもの。
【要望】
広告または表示が、実際のものより著しく優良・有利に表現され広告・表示関係法令に抵触する疑いがあるもの、または消費者の誤認を招くおそれがあることから、当該広告または表示の削除または修正を求めることが必要と認められるもの。
【助言】
広告または表示が、消費者の誤解を招く、または社会的・道義的問題等を有する可能性があるため、修正等の検討を求めることが必要と認められるもの。(従来の「提言」から名称変更)
2020年度上半期に特徴的だった事項のうち、下記の3点を紹介する。
2020年度上半期は、新型コロナウイルスの影響により、それに関連する意見が寄せられた。4月に緊急事態宣言が出されて外出自粛が進むと、そうした意見が増加するとともに苦情全体が大きく伸びた。
マスク、除菌剤、空気清浄機、壁材、クリーニングサービスなどに、「苦情」が598件、「照会」が160件寄せられた。内容は、安易に「新型コロナウイルス」などとうたった便乗表示や、感染症に効果があるかのような表示のほか、感染防止の観点から不適切、不安をあおる表現が不快といった広告表現に関するものもあった。
【参考】 新型コロナウイルス関連の広告・表示へのご意見
●[2020年6月~7月] www.jaro.or.jp/news/20201005.html
●[2020年4月~5月] www.jaro.or.jp/news/20200713.html
●[2020年1月~3月] www.jaro.or.jp/news/20200507.html
媒体「インターネット」は当期2,920件(前年同期1,907件)で前年同期比153.1%に上った。その細目を見ると、右表のとおり自社サイト以外が軒並み増加し、特に動画広告は4倍以上と急増した。月別に見ると2020年3月から増えている。外出自粛により動画を閲覧する機会が増えたことが要因の1つと考えられるが、これら苦情を内容別に見ると、品質や取引条件などの「表示」に関するものが、不快・好ましくないなどの「表現」より増加しており、問題のある広告が増えている可能性もある。
動画広告は「デジタルコンテンツ等」140件(前年同期31件)、「健康食品」113件(同26件)、「化粧品等」30件(同9件)、「医薬部外品」30件(同0件)が多く、医薬品的な効能効果をうたっており法違反のおそれがある。
また、動画広告については、体型や髪の量のせいでばかにされたり、物事がうまくいかないといったコンプレックスにつけ込む表現にも意見が寄せられた。(後述の厳重警告・警告の(4)(5)(9)(10))
「定期購入」に関する苦情は当期147件あり、増加が続いている。過半数を占める「健康食品」が目立つが、「医薬部外品」や「化粧品」など美容・健康系の商材が多く、その他には電子タバコやダニ捕獲シートなどもあった。媒体はすべて「インターネット」であり、上記の厳重警告および警告の中にも定期購入契約を指摘した事例が8件あった。(1)(2)(3)(4)(5)(7)(9)(11)
減少が見られない定期購入契約に対し、消費者庁は2020年4月1日に「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」を改正・施行したほか、同庁主催「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」の報告書(2020年8月19日公表)では、「詐欺的な定期購入商法」への規制強化が提言されており、今後取り組みが進むことが期待される。